日本フランチャイズ研究協会

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フランチャイズ本部構築のポイント④:加盟金とロイヤルティの決定

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2024年09月08日

フランチャイズ事業を始める際に頭を悩ますのが加盟金やロイヤルティの決定です。逆に,フランチャイズのプロトタイプ・モデルもできていないのに,加盟金とロイヤルティの額は既に決まっている,と豪語する経営者の方もたまにいらっしゃいます。いったい,加盟金やロイヤルティはどのように決めればよいのか。この問題に関して,アカデミックな研究と実務上の実例を交えて,詳しく解説します。

 

フランチャイズは打ち出の小槌ではない

フランチャイズを始めたいと相談に来られる経営者の中には,フランチャイズだと加盟金やロイヤルティ収入が獲得できて大儲けできる,と考えている方が少なくありません。極端に言うと,直営店では利益が上がっていないけれどもフランチャイズ化することで逆転満塁ホームランが打てる,と妄想を膨らませている方にも出会うことがあります。
フランチャイズにおいては,加盟金やロイヤルティなど加盟者から受け取る金銭は,本部が加盟者に対して提供する価値の対価である,という原則を踏まえなければなりません。フランチャイズ契約を締結する前に,本部は加盟希望者に対して,加盟金とロイヤルティの金額やその対価を,情報開示書面(公正取引員会,フランチャイズ・ガイドラインによる)上に明示することが求められています。
一般に,一度だけ徴収する加盟金は一度だけ提供する価値の対価,継続的に徴収するロイヤルティは継続的に提供する価値の対価,という対応付けがなされます。すなわち,フランチャイズ権の付与や商標の使用許諾,マニュアルの提供や開業前研修によるノウハウの供与など,一度だけ提供するものは加盟金の対価とするのが妥当です。一方,毎月のスーパーバイザーによる経営指導などはロイヤルティの対価であり,フランチャイズ契約の実務では,ロイヤルティ率(額)に見合うかどうかを判断するために,経営指導の頻度や具体的方法を記載しておくことが一般的です。

 

加盟金やロイヤルティの決定要因に関する学術的アプローチ

ところでアカデミックな世界ではアメリカを中心に,「加盟金やロイヤルティの決定要因は何か」という研究が行われてきました。大別すると,フランチャイズ本部の資金制約との関係を分析する「資金制約説」と,フランチャイズ本部が依頼者(プリンシパル)でフランチャイズ加盟者は受託者(エージェント)であるとする「エージェンシー理論」の二つによる研究が主流です。
まずは資金制約説から見ていきましょう。「本部の資金制約が大きいほど加盟金の水準が高くなる」という仮説は成立するのでしょうか。本部の必要とする資金を「開設費用」と「店舗の増減率」を変数として説明する分析をした結果,この仮説と一致する結果が得られています(Lafontaine 1992)。また,資金を調達する能力として,「事業年数」に加えて「株式公開が行われている」か否かをダミー変数として用いた分析では,「事業年数」について仮説と一致する結果が得られています(Sen 1993)。
この仮説に関していえば,フランチャイズ本部にとって,事業資金を調達する必要性が高ければ加盟者に要求する加盟金は高くなり,本部が事業資金を調達する能力が高ければ加盟金は相対的に低くなる,ということは当然と言えば当然のように思えます。

 

他方,エージェンシー理論では,「加盟店の努力の重要性が高いほど,ロイヤルティ比率が低くなり,加盟金が高くなる」という仮説を立てています。これは,フランチャイズ本部が加盟店の営業努力を十分に観察できない場合,加盟店には販売努力を怠るモラルハザードが発生する恐れがあり,この影響度合いによって加盟金やロイヤルティが決定される,ということです。この問題は,売上高に対する加盟店の努力の重要性が高いチェーンほど重要になり,かつ,そのモニタリングが困難である場合には,加盟店のインセンティブを高めるためにロイヤルティ比率を減少させ,その見返りとして加盟金を増加させる必要があると考えます。
この仮説の実証研究としては,加盟店の努力を示す変数として「付加価値率」「加盟店の経験」,店舗規模の代理変数として「開設費用」「店舗当たり売上高」という4つの変数を用いた分析(Lafontaine 1992)や,店舗規模の代理変数として店舗当たり従業員数のみを用いた分析(Vázquez 2005)などが見られます。しかしながら,Vázquez(2005)では仮説を支持する結果が得られましたが,Lafontaine(1992)では仮説を支持する結果はほとんど得られていません。
個人加盟者が加盟者の7割を占めるアメリカにおいては,エージェンシー理論でフランチャイズを上手く説明できる部分が多いのでしょう。しかし日本の場合は,アメリカとは逆に法人加盟者が全体の7割を占めており,法人の経営多角化の一環としてフランチャイズが選択されるケースが多く,エージェンシー理論をそのままあてはめることは出来ないと思料します。また実務家目線で考えれば,加盟店の経営努力が必要であれば(つまりフランチャイズ本部の提供するノウハウ等にあまり価値がないとすれば),ロイヤルティ,加盟金ともに低くなるのではないか,とも考えられます。むしろ加盟金ではなくロイヤルティの固定費部分を上げて,その代わりにロイヤルティの変動費部分を下げる,というのが現実的なの解決策なのではないか,とも考えられます。

 

この他にも「加盟金やロイヤルティの決定要因は何か」という問題について欧米を中心に多くの先行研究がなされています。「フランチャイズ契約の理論と実証」(丸山雅祥 2017)の中で先行研究がレビュー論文的にまとめられていますので,ご興味のある方はご一読ください(上記の解説も同論文から一部を引用しています)。
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2017/01/pdf/015-028.pdf

 

加盟金やロイヤルティの設定方法と留意点

加盟金とは,フランチャイズ契約締結時に加盟者から本部に支払われる金銭のことで,フランチャイズ契約によっては,権利金,入会金,分担金などと呼ばれることもあり,多くのフランチャイズ契約書には「加盟金は理由の如何を問わず返還しない」という規定が設けられています(加盟金不返還特約)。このような加盟金の不返還特約は,法律上,原則として尊重されていますが,近年では,この加盟金の不返還特約について,フランチャイズ本部が敗訴する事例も出てきており,取扱いには慎重を要します。
例えば,加盟金返還を求めた加盟者に対しフランチャイズ本部が加盟金不返還特約を理由にこれを拒否し,不当利得返還請求に至った神戸地裁2003(平成15)年7月24日判決があります。この判決では,たとえ加盟金不返還特約があったとしても,その加盟金が「対価性を著しく欠く場合にまで,事由の一切を問わずおよそ返還を求めることができないというのは,暴利行為であって公序良俗に反し,無効と解すべきである(民法90条)。」とする判断が示されています。
またフランチャイズシステムについての説明が詐欺的であったり,経営指導が不十分であったりするなど,そもそもフランチャイズ本部側のフランチャイズ事業に対する誠実性が疑われる事例では,フランチャイズ本部にとって厳しい判断が下されることは予見し得るところです。フランチャイズ契約の勧誘に当たっては,加盟金が何の対価であるのか,加盟金不返還特約とは何かといったことについてもしっかりと説明することが重要です。
したがって,加盟金の額の設定に当たっては,それが第三者から見て暴利に当たるようなレベルではなく,同業他社の事例にならい穏当なレベルに留めなければなりません。そして何よりも,加盟者が加盟金に見合うノウハウを提供してもらえたと思えるように,提供価値と加盟金額のバランスを考えてか加盟金決定をすることが肝要です。

 

ロイヤルティの算定方法には,毎月決まった額を支払う「定額方式」と,一定率を用いて算定する「定率方式」があります。ロイヤルティの算定方式の全体的な傾向は,加盟者の売上高の実績に一定率を乗じて算定するケースが多くなっています。一般に,本部との商品取引がある小売業や飲食業はロイヤルティが低く,商品取引のないサービス業はロイヤルティが高めに設定されます。これは,商品取引に一定のマージンが含まれるため本部はこの取引でも利益を得ることができるためです。
またロイヤルティには定率法と定額法(あるいはそのハイブリッド)があります。定率法は売上に対して(コンビニエンスストアなどは粗利額に対して)一定割合をロイヤルティとして設定するものです。ところで,定率法の前提となる加盟店の売上把握には多額のシステム開発費を要することが多く,資金的に余裕のないアーリーステージのフランチャイズ本部では,複雑なシステム構築を必要としない定額方式を採用する場合が散見されます。
ロイヤルティは継続的な役務提供の対価なので,スーパーバイジングなどの具体的な提供サポートの価値とのバランスが重要であることは,前述した通りです。それに加えて,フランチャイズ本部と加盟者が共存共栄できる利益配分を考える必要があります。私見ですが,フランチャイズ本部と加盟者とのリスク負担の割合に応じてリターンも分配すべきであると考えており,加盟者が初期投資というリスクテイクをする場合はリスク分担を同等と考えリターンも同等に分配するという考え方を推奨します。つまり,直営店で営業利益率20%の収益性を維持できているなら,フランチャイズ加盟者との利益分配は同等の10%ずつとし,商品取引マージン,システム使用料,共通広告費,そしてロイヤルティの合計でその10%徴収を実現する,という思想です。加盟者とすれば,営業利益率が10%程度無いと投資意欲がわかないということでいうと,フランチャイズ展開できるビジネスの収益性は(直営店として)営業利益20%程度はないといけないということになります。

ちなみに,初期投資の2倍は年間で売り上げ(資本回転率2.0倍),営業利益率が10%でそのすべてを投資回収に回すとすると,単純に投資回収法で計算して5年で回収ということになります。コンサルティングの実務では,このような数字をベースとして中期事業計画のシミュレーションを繰り返し,ロイヤルティを確定していきます。次の表は,主だったフランチャイズ企業の加盟金とロイヤルティの一覧です。参考になさってください。

 

出所:フランチャイズ研究会「フランチャイズ本部構築ガイドブック」同友館(2021)p101

 

Reference

丸山雅祥(2017)「フランチャイズ契約の理論と実証」『日本労働研究雑誌』第59巻,第1号,pp.15-28.
Lafontaine, F.(1995)“Agency Theory and Franchising: Some Empirical Results,”RAND Journal of Economics, 23, pp.263-283.
Sen, K. C.(1993)“The Use of Initial Fees and Royalties in Business-format Franchising,”Managerial and Decision Economics, 14, pp.175-190.
Vázquez, L.(2005)“Up-front Franchise Fees and Ongoing Variable Payments as Substitutes: An Agency Perspec- tive,”Review of Industrial Organization, 26, pp.445-460.

 

山岡 雄己

代表取締役/CEO

1965年,松山市生まれ
京都大学文学部卒,京都大学経営管理大学院修了(MBA)
サントリー宣伝部・文化事業部を経て,2002年に経営コンサルタントとして独立
専門は,チェーン・マネジメント,サービス・マーケティング,新規事業開発,人的資源管理。フランチャイズ・チェーンや地域メガジー企業を中心に,戦略策定支援を行う。またコーチ(ラグビー)の経験を活かし,組織開発や能力開発で実践的指導を行う。

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