日本フランチャイズ研究協会

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フランチャイズ本部構築のポイント⑤:DXとシステム開発

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2024年10月12日

フランチャイズ本部を構築するには,オペレーションとマネジメントの双方にシステムを導入する必要があります。オペレーションレベルのシステム化はユニットの収益性と生産性の向上のために,マネジメントレベルのシステム化はチェーン全体を統制調整し環境変化に合わせた意思決定と最適なリソース配分を行うために必要となります。本稿では,フランチャイズ本部におけるシステム開発とDXの推進,さらにはプラットフォームビジネスを応用したビジネスモデル革新の可能性について解説します。

 

フランチャイズにおけるシステムの必要性

フランチャイズにせよ直営にせよ,チェーンビジネスを行うには何らかのシステムが必要となります。ここ言うシステムには,チェーンビジネスの調整および統制,また円滑な運営を行うための「仕組み」という意味と,その仕組みを効率的に機能させるための「IT活用」という意味があります。
まず店舗レベルでの「仕組み化」とは,単一の作業や業務から属人的要素を排除して標準化した後に,それらの単一の作業等を同時に機能させる最も効率的な複数工程の組み合わせや場所的な配置を決めることです。そして「IT活用」とは,そのような標準化や仕組み化の生産効率を上げ進捗を正確に把握するために行われるものです。
ラーメン店を例にとるならば,ラーメンのレシピや作り方を決めるのが標準化,発注や仕込みを含めた作業の流れを決めるのが仕組み化,麺茹でを自動で行う機械を導入したり受発注データを一元管理するEDI=Erectric data Interchageによって在庫や廃棄ロスの削減を図ったりすることがIT活用と言えます。これらは個店レベルでのシステム化であり,主にはオペレーション(運営)レベルのものになります。
そして,整体やフィットネスのチェーンを例とすれば,顧客からの予約や入金の管理,顧客の店舗入退状況,顧客の継続率やリピート率,店舗の稼働状況,インストラクター別の売上や生産性などのKPI=Key Performance Indicator(重要業績評価指標)を管理するシステムを構築する必要があります。これらはチェーンビジネスとして複数店舗の運営を統制調整するために必要なものであり,マネジメント(管理)レベルのシステムとなります。フランチャイズ・チェーンの場合,プロフィットセンターとしての個店ごとの売上・コスト・利益を把握するシステムがないと,加盟店から徴収するロイヤルティ額(売上に定率をかけた金額の場合)が計算できません。また,想定したKPIに対して実績がどうなっているかをタイムリーに把握して,しかるべく支援活動を行うことがSV=スーパーバイザーの役目ともなります。

 

■ システム導入のフロー(概念図)■

DXのはじめの一歩:デジタイゼーション

ビジネスシーンで一般用語となったDX=Didital TransformationはIT技術を活用してビジネスに変革をもたらすことを意味しますが,DXにはデジタイゼーション(Degitization)とデジタライゼーション(Degitalization)の違いがあります。その違いを大まかに定義するならば,前者のデジタイゼーションはアナログな手作業をデジタルな機械に置き換えること,後者のデジタライゼーションはデータや分析やAI活用により革新的に経営効率を上げることと捉えると分かりやすいと思います。
デジタイゼーションの第一歩はペーパレス化であり,手作業で行っている業務をエクセルなどの表計算ソフトを使って効率化することが挙げられます。またフランチャイズ業界においては,複数ブランドに加盟している地方の有力メガジー(メガ・フランチャイジー:フランチャイズ事業だけで年商20億円以上あるいは30店舗以上の事業者を指します)へのRPA=Robotic Process Automationの導入などが考えられます。
これまでメガジーは,各フランチャイズ本部から提供された情報システムのアウトプットをCSVで取り出して別の表計算ソフトに「コピペ」して売上利益管理をするというような業務プロセスだったのかもしれません。RPAとは,このデータを自動的に収集して統合するようなシステムのことだとイメージしていただければよいでしょう。ちにみにRPAは,会計ソフトや勤怠管理ソフトなど単独で動く(スタンドアローンな)アプリケーションを変更せずにアウトプットを連携するシステムであり,システム全体を最適化するERP=Enterprise Resource Planning導入の手前で検討する手法と捉えることもできるでしょう。

 

■ RPA=Robotic Process Autmation のイメージ ■

マネジメントの高度化:デジタライゼーション

複数店舗(プロフィットセンター)を展開するチェーンビジネスにおいては,店舗ごとに売上データ,顧客情報,在庫データ,スタッフの勤務状況,マーケティング施策の効果など,さまざまなデータが店舗から上がってきます。さらに,外部データとして,地域ごとの人口動態データや競合情報,天候データなども意思決定に活用することができます。そして店舗ごとの売上高や粗利益率,客単価,リピート率,在庫回転率などをKPIとして設定し,その中でもCPA=Cost Per Acquisition(顧客獲得コスト)やLTV=Life Time Value(顧客生涯価値)など,長期的な視点での評価指標も設定することで,持続的な成長を目指すことも可能となります。
デジタライゼーションとは,これらのKPIについてデータ収集と統計解析的手法によって分析し,マネジメントを高度化するための手法です。データ解析では,売上や在庫データについては時系列解析を行い,トレンドや節変動を考慮した予測を行います。また顧客データについては,クラスター分析などを用いて顧客セグメンテーションを行うことで,ターゲットマーケティングを強化することも可能です。さらに,統計解析ツールを用いて回帰分析を行い,プロモーション施策が売上にどの程度影響を与えたかを評価し,最適なマーケティング戦略を策定することもできます。
このように様々なBI(ビジネスインテリジェンス)ツールを使ってダッシュボードで経営を可視化することで,チェーンビジネスの経営効率を高め競争力を強化することができます。下図はChatGPTで生成したチェーンビジネスにおけるダッシュボードのイメージです。画面には,売上,利益率,顧客維持率,在庫回転率といった主要なKPIを表示する複数のウィジェット(棒グラフ,円グラフ,折れ線グラフなど)が表示されています。店舗ごとのパフォーマンスを視覚化する地図もあり,複数店舗のデータを一目で把握できるようになっています。このようなダッシュボードを活用することにより,経営者はリアルタイムで経営状況を把握し迅速な意思決定が行えるようになるのです。

 

■ BI=Business Intelligence によるダッシュボードのイメージ ■

プラットフォームビジネスの可能性

デジタル技術を活用したプラットフォームビジネスは,需要と供給のマッチング効率を高めることで従来のビジネススキームを大きく変革しており,その潮流はGAFAのような情報産業だけではなく,物品を扱う様々な業界で応用されるようになっています。日本国内では,印刷業界における「ラクスル」や「プリントパック」,C to Cビジネスの「メルカリ」や「ジモティ」などのマーケットが成立し,コロナ禍においては「UberEATS」や「出前館」などのデリバリー・プラットフォームの伸長に目覚ましいものがありました。
日本のフランチャイズでは,20世紀の終わりごろに中古車のオークション市場が成立することにより業界全体がプラットフォーム化され,買取ビジネスが成立しました。この流れは農機具や貴金属・ブランド品の買取ビジネスへと広がり,現在でもフランチャイズ業界の大きなカテゴリーを占めるに至っています。

 

ところでこのようなプラットフォームビジネスは,地域あるいはニッチな市場でも成立する可能性があります。例えば,地元の農産物をオンラインで直接消費者に販売する仕組みや,手工芸品や地域限定の特産品を取り扱うオンラインマーケットプレイスなどが考えられ,小規模な事業者でも全国の消費者にアクセスし,ビジネスを拡大できる可能性が広がります。そしてプラットフォームに参加する事業者がチェーン化することで,生産性の向上だけではなく,サービスの標準化や品質の向上を図ることも期待できます。
さらにプラットフォームビジネスは,地域におけるサーキュラーエコノミー(循環型経済)の実現に寄与する可能性もあります。中古品の売買やリサイクル資源の流通を効率化することで物品のライフサイクルを延ばし,廃棄物の削減に寄与することができます。農産物や食品においても,地元で生産されたものを地元で消費する「地産地消」の仕組みをプラットフォーム上で強化することで,輸配送コストの削減や食品ロスの軽減にも繋がります。さらにはプラットフォームを活用することで,需要に合わせた生産や販売が可能となり,余剰在庫を持つリスクが減少し,地域内での効率的な資源循環が実現します。
このように,デジタル技術の進化により地域のニッチな市場でもプラットフォームビジネスが成立する可能性が高まっています。地域経済の活性化や個々の事業者の成長が期待されるだけでなく,サーキュラーエコノミーの推進により持続可能な地域社会の発展が推進されるかもしれません。プラットフォームの技術を応用して,地域でチェーン化や事業者連携を進め,循環型の仕組みを取り入れ価値共創し,資源効率を高めたエコロジーな経済を実現する将来は夢物語ではなくなってきているのです。

山岡 雄己

代表取締役/CEO

1965年,松山市生まれ
京都大学文学部卒,京都大学経営管理大学院修了(MBA)
サントリー宣伝部・文化事業部を経て,2002年に経営コンサルタントとして独立
専門は,チェーン・マネジメント,サービス・マーケティング,新規事業開発,人的資源管理。フランチャイズ・チェーンや地域メガジー企業を中心に,戦略策定支援を行う。またコーチ(ラグビー)の経験を活かし,組織開発や能力開発で実践的指導を行う。

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