フランチャイズコンサルが教える立地の見方
店舗ビジネスにとって、立地条件が成否を決める大きな要因であることは言を俟(ま)ちません。新たに店舗を出店する際には、その立地の良し悪しを評価すること、すなわち、立地診断を適切に行うことが重要です。
しかし、立地の条件を決定する要素は極めて多く、複雑に絡み合っています。初心者にとって立地の良し悪しを判断することは難しいものであり、創業などで初めて出店を経験するケースでは「好き嫌い」といった感覚で決めてしまうケースも多いでしょう。
個人店であればそれでなんとかなる場合もありますが、多店舗展開を考える場合やフランチャイズ本部構築においてはしっかりとした評価基準をもたなければなりません。このコラムでは、そんなときに役立つ立地の見方について解説します。
1.フランチャイズ本部構築に立地戦略が必要な理由とは?
繁盛店を多店舗展開したいときやフランチャイズ化を考える場合は、成功店のモデルをそのまま他の場所で展開することが基本的な戦略になります。しかし、どんな立地でも通用するモデルは現実にはありません。そこで、「ウチの店は、こういう場所ならうまく行く」という成立条件を客観的に把握したうえで出店地の選定基準をつくり、その基準に見合った立地を探すことになります。これが立地戦略です。
仮に立地戦略が失敗した場合、フランチャイズチェーンは甚大な影響を受けることになります。誤った立地戦略のもとに店舗数を拡大した場合、不採算店が続出することになります。フランチャイズは直営にくらべて店舗展開のスピードが早いため、店舗数が増えてしまってから立地戦略の誤りが表面化する可能性があります。そうなってしまうと、加盟店の売上不振やトラブルが同時多発的に発生し、ブランドの毀損のみならずチェーン存続の危機につながることさえあるのです。
フランチャイズ本部の構築には、特徴的な商品サービスや提供方法など、店舗運営に関するノウハウを標準化することが必要ですが、立地条件の標準化も欠かせないのです。
2.店舗コンセプトと立地タイプの関係
店舗立地はいくつかのタイプに分類することができます。代表的なものに、駅前型、住宅地型、商店街型、オフィス街型、郊外ロードサイド型、小判ザメ型、観光地型等があり、店舗コンセプトによって適する立地タイプが異なります。
立地タイプ | 特徴 | 注意点 |
駅前型 | 交通量が多く、顧客層の幅が広い
時間帯により通行量の偏りあり |
さまざまな来店客が見込まれる一方、店舗賃料が高い |
住宅地型 | 顧客の近くに立地
店前通行量が少ない可能性(地域住民の生活動線次第) |
コンセプトに合う顧客がいるのかを慎重に検討する必要あり |
商店街型 | 商店街のタイプ(最寄り・買い回り・大規模等)により適正業種が存在 | 商店街のタイプと業態が合っているか検討する必要あり |
オフィス街型 | 周辺のオフィスに通勤するビジネスマン・OL等が顧客層
休日は顧客数が大幅にダウン |
来店客の増減が激しく、ニーズにも特徴があるため、コンセプトとの整合性を確認する必要あり |
郊外ロードサイド型 | 自動車客がメイン
店前通行量や駐車場の入りやすさ、店舗や看板の訴求力が重要 |
車客のニーズに対応しているかを検討する必要あり |
小判ザメ型 | ロードサイドの大型店の隣接地に出店し、おこぼれの客を狙う
出店費用を抑えられる可能性あ |
大型店の集客力に左右されるので、来店客層や来店時間等を見極める |
観光地型 | 観光客が顧客層
観光施設に向かう動線上にあることがポイント |
観光客向けか地域住民に向けた店舗かをコンセプトに合わせて検討する必要あり |
立地タイプにあわせて複数の候補地をピックアップして評価(立地診断)を行います。まずはデータで定量的な評価を行いますが、最終的には現地調査を行ってデータと実態を比較することが重要です。その際には、「徹底的にお客様の視点で考える」ことがポイントになります。
3.立地診断に欠かせない3つの視点
日本フランチャイズ研究機構では、立地診断に際して「面(商圏)・線(動線)・点(地点)」の3つの視点で考えることを推奨しています。これによって、立地を診断するときに検討するべきたくさんの項目をわかりやくすく整理することができます。評価の際は“マクロからミクロへ” を意識し、面→線→点の順番で見ていきます。
3−1.面(商圏)の評価
お客様が居住あるいは勤務している地域の特性を把握します。商圏内の人口やターゲット層の割合、市場規模などが具体的な評価項目となります。また、競合店の存在やその動向も把握しておきたいポイントです。
(評価項目の例)
◼︎商圏人口:商圏内の居住者(あるいは勤務者)の人口を調べます。
◼︎人口構成:総人口のうちのターゲット層の割合を確認します。
◼︎将来性:人口増減の将来予測や周辺の開発状況から将来性を評価します。
◼︎市場規模:店舗を設置するのに適切な市場規模があるのかを評価します。市場規模は「ターゲット世帯数 ✕ 世帯あたりの購買力」で推計することができます。
◼︎競合状況:商圏内の競合店の数を調べます。また、将来競合が出店してくる可能性は高いかについても評価します。
jSTAT MAPの活用商圏内人口や世帯数は、 総務省統計局が提供している地理情報システム 「jSTAT MAP」 で簡単に調べることができます。 |
3−2.線(動線)の評価
出店候補地前の通行量や道路の様子だけでなく、商圏内の消費者の流れを全体的に分析します。商圏内の主要な動線から出店候補地への近づきやすさを確認します。
※消費者の流れは、大型店舗や駅、中心市街地など商圏内の中心となる施設・要素に向かって生じます(この中心点のことをマグネットといいます)。Google マップやストリートビューでマグネットと動線を発見することができますが、現地調査で確認することがもっとも確実な方法です。
(評価項目の例)
◼︎アクセスしやすさ:候補地が消費者の動線に沿っているか、周辺に障害物はないか、などについて現地で調査を行います。
◼︎店前通行量:顧客層が店舗の前をどれだけ通るか、乗用車または人の通行量を実際に計測してみます。曜日や時間帯、天気によって通行量が変わるので、調査日時は店舗にとって最も大事な曜日・時間帯を基準にします。
◼︎マグネットからの店舗位置:マグネットと候補地の位置関係を確認します。
◼︎立地の優位性:競合店と比較して、どちらの立地が優位にあるか比較します。
RESASの活用経済産業省が提供している「RESAS」の流動人口メッシュでは、月別、平日・休日別、時間帯( 時間帯単位)別の流動人口の推移を 500m メッシュ単位(政令指定都市及び東京特別区(東京 23 区)については250m メッシュ単位)で把握することができるため、商圏内のマグネットを発見するのに便利です。 |
3−3.点(地点)の評価
お客様の目にとまりやすいか、お客様が入りやすいかを確認します。地点の評価は現場を確認することが何より重要です。ちょっとした段差や障害物が入店時の心理に影響しますので、ささいな要素も見逃さないようにします。物件の形状や間口の広さなども重要なポイントです。
(評価項目の例)
◼︎視認性:店舗外観や屋外看板などで、遠くから店舗の場所がわかるかを確認します。
◼︎店前の障害物:大木とか放置自転車、道路との段差など、入店の支障になるものはないかを確認します。
◼︎間口:前面道路に面している部分は十分な幅があるか。
◼︎敷地(店舗)の形状や広さ:広さは十分か、使いづらい形状ではないか。
◼︎車の出入り:車の出入りに支障はないか。
◼︎駐車場:敷地内あるいは近隣に十分な駐車スペースがあるか。
4.立地評価シートの活用
このように、立地診断は机上の調査だけでなく、実際に現地を観察して認識した情報も参考に、総合的に判断することが重要です。
調査した情報を取りまとめるためには立地評価シートを活用するとよいでしょう。このようなシートを活用すれば、出店可否の判断が効率的になるのにくわえて調査データの蓄積が容易になるため、立地戦略の精度向上にも有効です。
(立地評価シートの例)
出典:新版フランチャイズ本部構築ガイドブック