直営店からフランズチャイへ。最初の難関「スーパーバイザー確保」を乗り越える実践ガイド
「フランチャイズ展開を考えているが、最初のスーパーバイザーをどう確保すればいいのかわからない…」 「社内にフランチャイズの経験者がいないのに、加盟店の支援体制を整えられるだろうか…」「そもそもスーパーバイザーって必要なの?」
本コラムでは、直営店のみの運営から一歩踏み出した、フランチャイズ展開初期におけるスーパーバイザー(以下SV)の確保と育成について、筆者が飲食店で過去に体験した(失敗)事例を交えて解説します。
SVを確保するには「直営店からの人材登録」「即戦力となる経験者採用」「専門機関の活用」などがありますが、これらのメリット・デメリットについても詳しく解説します。また、SVの育成やスキル向上のための実践的なノウハウもご紹介します。フランチャイズ展開の第一歩を確実に進めるために、必読の内容となっています。
スーパーバイザーの重要性とその役割
フランチャイズビジネスにおけるSV
フランチャイズビジネスの成功は、本部と加盟店の良好な関係構築が鍵となります。その鍵の要となるのが、SVです。SVは単に本部から派遣された店舗管理者はありません。その本質は、加盟店の事業成功のため、本部の経営理念やビジョンを加盟店に繋ぐ「知識の懸け橋」として機能することにあります。
SVに求められる6つの基本機能
継続的なスーパーバイジングを実現するために、SVには以下の6つの重要な機能が求められます。
■「コントロール(統制機能)」…フランチャイズ契約に基づいた標準的な店舗運営の実現を支援します。
■「コミュニケーション(情報伝達機能)」…本部と加盟店の橋渡し役として双方向の情報伝達を行い信頼関係を構築します。
■「コンサルテーション(経営診断機能)」…仮説〜検証のプロセスを通じて、加盟店の業績向上に向けた具体的な施策の最適解を導き出し、その実行をサポートします。
■「カウンセリング(コンサルテーションの潤滑油)」…加盟店が本部に問題解決や意思決定を支援してもらう際、よりスムーズに運ぶような関係を構築します。
■「プロモーション(販売促進機能)」…チェーン全体の販売促進の実施や加盟店ごとの個別販売促進の実施をサポートします。
■「コーディネーション(本部各部署との調整機能)」…加盟店が業績を向上させるために本部の各部署と密接に連携し、最適な加盟店支援につなげます。
加盟店支援における具体的な活動内容
SVの日常的な活動は多岐にわたります。定期的な店舗訪問では、運営状況の確認や課題の発見、解決策の提案を行います。また、本部の新たな宣伝や販促企画の説明、実施支援も重要です。さらに、加盟店スタッフの教育支援や、本部への報告・提案なども行います。これらの活動を日々繰り返すことで、加盟店の業績向上と本部のブランド価値向上の両立を目指していきます。
初期段階におけるSV体制構築の課題
立ち上げ期特有の課題
フランチャイズ展開の初期段階では、SVの不在が大きな課題となります。多くの場合、本部の経営者が自らSV役を担うことになりますが、加盟店数の増加に伴い、一人での対応には限界が来ます。また、経営者がSV業務に時間を取られることで、本部機能の強化や事業戦略の実現が停滞するリスクもあります。
正しいSV配置のタイミング
実務的な目安として、加盟店が5店舗程度に達した時点で、専任のSVを配置することを推奨します。業種にもよりますが、おおよそ5店舗までが、SV視点で経営者の目の届く範囲であると思われます。このタイミングを逃すと、加盟店支援の質が低下し、チェーン全体の成長に影を落とすことになりかねません。さらなる成長を見越し、SVの確保と育成には一定の時間をかけて、4店舗目の出店が決まった段階から、具体的な人材確保の取り組みを開始することを推奨します。
理想的なSV人材の要件
SVには、実務経験、コミュニケーション能力、問題解決能力など、多様なスキルが求められます。また、本部の理念や経営方針を深く洞察し、それを加盟店に浸透させる能力も重要です。
初期段階でのSV確保の方法
直営店からの人材登用
最も確実な方法の一つが、直営店の優秀な店長をSVに登録することです。この方法の利点は、当面の業務姿勢や運営ノウハウを熟知していること、また本部の理念や方針への理解も深いことです。やはり、フランチャイズビジネス特有のスキルはある程度習得が必要になります。
外部からの経験者採用
即戦力として期待できる、他チェーンでSV経験のある人材の採用です。フランチャイズビジネスの基本的なスキルはすでに持っているため、初期の戦力化が可能です。ただし、理念・方針への適応には時間が必要です。また、採用コストが比較的高額になる点も必要です。
アウトソーシングの活用と留意点
フランチャイズコンサルティング会社などへのアウトソーシングも、初期段階では有効な選択肢になります。また、重要な業務を外部に依存することのリスクも考慮する必要があります。
<ケーススタディ>失敗事例から学ぶSV確保の方法
a.SVを配置せず、各店の責任者に任せるケース
筆者の体験に限って言えば、このケースは例えるなら「度を超えたな献血」でした。適切な量を超えて血=人材を抜き、本店のクオリティは大きく低下しました。また、展開先の責任者となったスタッフには、そもそも少ない血で動き始めなければならないことに加え、プレイヤーからマネージャー(多くはプレイングマネージャー)への変化が求められることとなり「名選手必ずしも名監督にあらず」を体現するかたちとなってしまいました。
b.「できる店長」をSVに抜擢したケース
ある飲食チェーンでは、一号店で優秀な成績を上げていた店長を、そのままSVとして登録用。一号店と同じ指導を行おうとしたため、加盟店オーナーとの関係構築に苦労することになりました。 さらに、プレイヤーとしての優秀さゆえに、細かな業務にまで介入してしまい、加盟店の自主性を損なう結果となってしまいました。
c. 外部のベテランSVを採用したケース
別のチェーンでは、大手FCチェーンでの経験が豊富なSVを採用しました。しかし、前職での成功体験にこだわりすぎ、自社の理念や独自性を十分に理解せずそのまま指導を始めてしまいました。その結果、接客の手順や業務フローは標準化されたもの、創業時からの「想い」や「こだわり」が薄れ、チェーン全体の独自性が失われていく事態となりました。
これらの失敗例から、効果的なSVを確保するためには以下の3点が重要であることがわかります。
<技術指導力とコーチ能力の両立>
単に秀でたプレイヤーではなく、その知識やスキルを外部に伝えることができるマネージャーとして人材を評価する必要があります。 特に、加盟店オーナーという対等なビジネスパートナーへの指導という視点を重視します。
<理念浸透の重要性>
業務手順の指導の前に、なぜその手順が必要なのか、どのような想いが込められているのかを、わかりやすく伝えられる人材を育成することが重要です。これにより「伝言ゲーム」的な本質の破壊を防ぐことができます。
<段階的な権限委譲の仕組み作り>
SVとしての成長過程に応じて、段階的に権限を委譲していく仕組みを整備します。初期は本部のサポートを受けながら、徐々に自立的な指導ができるよう成長を考えます。
これらの事例と教訓を踏まえ、自社に適したSV確保の方法を選択することが、成功への近道となると考えます。
SVの育成システムの構築
育成計画の立て方
計画的なSV育成のためには、まず必要なスキルを明確にし、段階的な習得計画を立てることが重要です。店舗運営、コミュニケーション、問題解決など、各スキル領域について具体的な到達目標を設定また、OJTとOff-JTを組み合わせた効果的な育成プログラムの構築も必要です。
スキル評価の具体的な方法
SVのスキル評価は、提案力、率先垂範、関係構築力、調整力、協調性などの観点から定期的に行います。評価にはチェックリストを活用し、各項目について具体的な行動レベルで確認この評価結果をもとに、個別の育成計画を見直し、継続的なスキル向上を図ります。
段階的な育成プロセス
新任SVの育成は、まず基本的な業務の習得からスタートします。店舗訪問の手順、報告書作成、基本的なコミュニケーションスキルなどを身につけた後、徐々に高度な支援スキルの習得までこの上級段階では、SVによるOJTや、外部研修の活用も効果的です。
効果的なスーパーバイジング体制の維持
SVマニュアルの整備
効果的なスーパーバイジングを実現するためには、基本的な業務手順や指導方針をマニュアル化することが重要です。マニュアルには、店舗訪問の頻度や手順、報告書作成方法、問題発生時これにより、個人の力で量に依存せず、標準化された支援体制を構築できます。
定期的なスキルチェックと改善
SVのスキルは定期的な評価とフィードバック継続的に向上させる必要があります。評価結果をもとに、個別の課題を特定し、必要な研修や指導を実施します。成功事例や課題の共有を図ることも効果的です。
店舗展開とSV育成のバランス
フランチャイズチェーンの成長には、店舗展開のスピードとSV育成のバランスが重要です。 一人のSVが効果的に支援できる店舗数には限界があるため、計画的なSV人材の確保と育成が必要です新規出店計画とSV育成計画を連動させることで、適切な支援体制を維持できます。
おわりに
専門家への相談のすすめ
フランチャイズビジネスにおけるSV体制の構築は、チェーンの成長と成功を考慮する重要な要素です。特に初期段階では、適切な人材の確保と育成が大きな課題となります。
日本フランチャイズ研究機構では、フランチャイズ展開を検討している企業様に対して、SV体制構築に関する具体的なアドバイスと支援を提供しています。特に、初期段階での人材確保や育成計画の進め方、マニュアル整備などについて、豊富な経験と専門的知見に基づいたコンサルティングを実施しております。フランチャイズ展開をご検討の際は、ぜひご相談ください。