日本フランチャイズ研究協会

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フランチャイズ本部構築のポイント②:プロトタイプモデルの設計

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2024年08月16日

フランチャイズ展開を始めるにあたっては,その基礎となるプロトタイプモデルを確立することが重要です。プロトタイプモデルは,単に商品やサービスの提供というだけでなく,ロジスティックスやマーケティングのノウハウを内包した,一連のビジネスフォーマットとして成立している必要性もあります。本稿では,プロトタイプモデルの具体的な設計方法と,これからの時代のプロトタイプモデルにおけるデジタルプラットフォームの可能性について解説します。

ビジネスフォーマット型のフランチャイズとは

日経フランチャイズショーなどの展示会の相談コーナーに座っていると,「いいビジネスのアイデアを思い付いたのだけれども,これをフランチャイズ化できないか」というような相談を受けることがあります。しかし残念ながらそういう方には,「アイデアだけでは飯は食えない」ことをはっきり申し上げるようにしています。

いいこと思い付いても形にするのは難しいもので,アイデアを熟成させて現実化させるのがひとつ目の壁となります。そして現実化させたものを市場に受け入れられる付加価値のある製品やサービスに落とし込むのがふたつ目の壁です。そしてこれらの製品やサービスの提供方法やマーケティングの方法までノウハウ化して,競合他社が簡単には真似できないようなモデルを確立するのが三つ目の壁です。
別の言い方をするならば,アイデアだけではお金にならないけれども,それを原材料として提供すれば少しお金になり,それを製品化してブランド化すればもっとお金になります。さらにはその売り方までノウハウ化してサービスと組み合わせる,つまりビジネスフォーマット化すればさらにお金になる,ということなのです。

フランチャイズビジネスを成功させるということは,この3つの壁を乗り越えるということであり,日本のフランチャイズはほとんどがビジネスフォーマット型のフランチャイズです。ちなみにアメリカでは,原材料型や製品型のチェーンシステムも含めてフランチャイズと総称しており,前者の典型は原材料である原液をボトラーに卸販売するコカ・コーラ社であり,後者の典型は日本でも見られる自動車の系列販売会社(ディーラー)です。

ビジネスフォーマットまでのサイクル

どこで儲けるか:スマイルカーブを意識する

ところでビジネスフォーマットは,スマイルカーブ理論から考えることもできます。スマイルカーブとはビジネスの収益性を表す曲線のことで,付加価値=収益性を縦軸に,事業プロセスや市場での時間経過を横軸に取った場合,収益性はU字曲線を描き,その形状が笑顔のように見えることからこのように呼ばれています。スマイルカーブは,研究開発や企画といったビジネスの上流とマーケティングやアフターサービスといったビジネスの下流の付加価値が高く,製造や配送といった中流のあたりの収益性が低いことを表しています。

アップル社にスマイルカーブ理論を適用するならば,同社は収益性の低い製造工程を台湾や中国の企業に任せていることが分かります。そして技術開発やデザイン企画といった上流と,マーケティングやアフターサービス,そしてコンテンツ販売のサブスクリプションといた下流に経営資源を集中し,収益性を高めています。このようにアップル社は,優れた開発力と企画力を上流に,そして多岐にわたるマネタイズの手段を下流に有しているからこそ,比類なき収益性を維持することができるのです。

これをフランチャイズに当てはめるならば,ビジネスの上流で特許や商標などの産業財産権を有し技術的にも独自性のあるビジネスは,模倣困難性が高く相対的に収益性も高くなると考えられます。またビジネスの下流で,販売促進活動や顧客関係性強化のマーケティング手法やそれによりブランディングが確立しているビジネスは競争優位性を有し,その一連のバリューチェーンが収益性の源泉になると捉えることができます。もちろん,中流にある製造や物流の工程にもブラックボックスを設計することはできますが,スマイルカーブの上流と下流をどのように取り込んで収益性を上げるかということが,ビジネスフォーマットのKFS=Key Factor of Success(重要な成功要因)となります。

スマイルカーブにおける付加価値の変化

プロトタイプモデル確立と3-2ルール

フランチャイズ展開をするためには,直営1号店(店舗でない場合はユニット)の成功は絶対条件です。そして,その成功要因を明らかにし他店舗でも再現できるようにノウハウ化することでチェーンとしての横展開が可能になり,2店舗目,3店舗目,そしてフランチャイズ加盟募集へとつながっていきます。この,その後のチェーン展開のモデルとなる成功店舗(ユニット)のことをプロトタイプモデルと言い,設計から仮説検証と修正を繰り返してモデルを確立させていきます。

プロトタイプの設計では,下に示したようなコンセプトマップを用いて,項目ごとに成功のためのポイントを定義づけしていくという方法をお薦めします。まずは,企業としてのビジョンや経営理念からスタートし,次にどのようなビジネスかを一言で表現する「事業コンセプト」を定義します。これに外部環境の機会と脅威を加味して,「Who=誰に,What=何を,How=どのように」を具体的に落とし込んでいきます。この3項目はフランチャイズだけでなく,マーケティング・コンセプトとしても重要な3つの要因となります。

コンセプト設計が曖昧であると仮説検証が上手くできずプロトタイプの確立が危うくなります。仮にコンセプトワークが不十分なままでフランチャイズ展開を始めてしまうと,加盟希望者への業態コンセプトの訴求効果が高まらないばかりか,業績不振時のスーパーバイジングのノウハウがないため加盟者の不満が噴出する原因ともなります。このように,業態コンセプトの確立がチェーン展開のスタートでもあり,ビジネス独自の成功ノウハウがフォーマット化されているかという点で,フランチャイズ事業の生命線とも言えるのです。

プロトタイプモデルの設計の概念図

出所:フランチャイズ研究会,「新版 フランチャイズ本部構築ガイドブック」(同友館,2022, p42)を加工

 

また,フランチャイズ展開を始めるにあたっては,「3ショップ・2イヤーズ・ルール」と呼ばれる原則があります。これは,最低でも3店舗,2年以上の直営事業経験がなければ,加盟者に対してビジネスの成功可能性を十分に立証できない,ということです。3ショップでは立地タイプや商圏でのマーケティングの違いなどをノウハウ化することと,2イヤーズでは開業景気と季節指数を経験して売上の安定ラインを見極めることが求められます。

一方で最近は,情報化社会の進展や消費者ニーズの多様化により流行の拡散と衰退が速くなり,同時に業態の発展と衰退も速く進むようになっています。そのため業種業態の特性によっては,事業実績の検証が1年間で可能であるとして,2年の検証期間を待たずしてフランチャイズ展開をする考え方もあります。いずれにせよ,加盟者に対してビジネスモデルの再現可能性を十分に説明できる材料を揃えることが重要です。

フランチャイズ研究会「新版 フランチャイズ本部構築ガイドブック」(同友館,2022)

これからの時代のデジタルプラットフォームとは

最近のビジネスシーンでは,デジタルプラットフォームという言葉をよく耳にするようになってきました。デジタルプラットフォームといえば,AmazonやUberイーツ,日本初のサービスではメルカリやPayPayなどを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。デジタルプラットフォームは平たく言えば,売り手(供給者)と買い手(需要者)をWEB上でマッチングさせる仕組みです。IT技術により大量の情報をリアルタイムで共有しマッチングさせることで,膨大な数の商取引がスムーズに取り行われるようになりました。

ところで,デジタルプラットフォームはGAFAのような大規模IT企業の市場独占モデルのようにとらえられがちですが,視点を変えてフランチャイズとプラットフォームの関係を再認識する必要があります。日本においては20世紀の末に,中古車買い取りビジネスのモデルを作り上げた「ガリバー」がプラットフォームを活用したモデルと言えます。このビジネスモデルは,買い取った中古車をオークション市場というプラットフォームに出品することで成立したものです。それまでの一般的な中古車販売業者が,自社で買い取り自社で販売する(あるいは系列チェーンの中で流通させる)だけだったのに対し,オークション市場というプラットフォームを取り入れた画期的なモデルだったと評価できます。同じようなビジネスモデルは貴金属の買い取りでも見られ,旧他然とした「質屋」のビジネスモデルはプラットフォームビジネスにより一新されました。

プラットフォームビジネスは,利用者が増えれば増えるほど利便性が増すという「ネットワーク外部性」が機能することで成長するビジネスモデルであり,このネットワーク外部性を獲得するには「規模の経済」を追求するフランチャイズのビジネスモデルは有効です。加えて,ムーアの法則よろしく,ビジネスのクラウド化によってプラットフォームの開発コストが30年前に較べて著しく低減しています。

以下は私見です。人類は歴史上,徴収システムは精緻化できも分配システムに永続的な透明性や公平性を担保させることに成功していません(およそ政治的失敗の多くがその証左)。デジタルプラットフォームは,社会インフラとしてそれを実現する可能性を有しており,ブロックチェーン技術による実体経済の分散化がサーキュラーエコノミーを推進する可能性もあります。そのような視座を持って,デジタルプラットフォームがフランチャイズビジネスをSHINKAさせる可能性を模索できればと,個人的には考えています。

山岡 雄己

代表取締役/CEO

1965年,松山市生まれ
京都大学文学部卒,京都大学経営管理大学院修了(MBA)
サントリー宣伝部・文化事業部を経て,2002年に経営コンサルタントとして独立
専門は,チェーン・マネジメント,サービス・マーケティング,新規事業開発,人的資源管理。フランチャイズ・チェーンや地域メガジー企業を中心に,戦略策定支援を行う。またコーチ(ラグビー)の経験を活かし,組織開発や能力開発で実践的指導を行う。

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