フランチャイズ本部構築のポイント③:組織づくりとリソースの活用
フランチャイズ本部構築に際して考慮すべき事項のひとつとして,本部機能とそれに対応する組織のデザインが挙げられます。小さく始めて事業を軌道に載せていく「リーンスタートアップ」の考え方を適用して,ビジネスモデルづくりと組織づくりを並行して進めていくことがポイントです。本稿では,フランチャイズ本部の基本機能と拡充機能,外部リソースの活用の仕方とその留意点,のれん分け制度による内部リソースの外部化という観点から,フランチャイズ本部の組織づくりについて解説します。
フランチャイズ本部に必要な機能
フランチャイズ本部には,フランチャイズ事業開始の初期段階であっても,商品開発,店舗支援,加盟者開発という基本的な3つの機能が必要となります。一つ目の商品開発機能は,店舗で提供する商品やサービスを開発し,それを絶えずブラッシュアップしていく機能のことです。商品開発機能は単に商品やサービスの開発だけでなく,店舗コンセプトシートの要素である,立地商圏,ターゲット,収益モデル,販促マーケティング,店舗環境設計などを反映したものでなければなりません(無店舗型ビジネスの場合は,立地商圏や店舗環境の代わりにサイト環境など)。つねに顧客や市場のニーズを把握して商品やサービスをブラッシュアップし,付加価値を提供することにより収益性を維持することが求められます。この機能は,フランチャイズを行うか行わないかに関わらず,チェーン化・複数店舗化を進めるにあたっては必要な機能となります。
二つ目は,店舗サポート機能です。店舗の売上不振やスタッフ不足などの問題を解決するアドバイスや,場合によっては店舗に入ってヘルプをするようなサポートを行います。店舗を運営する上で発生する様々なイレギュラー事項に都度対処することでノウハウが蓄積され,結果としてそれらが店舗サポート力の源泉となっていきます。特にフランチャイズの場合は,店舗指導としてのスーパーバイジングが毎月加盟者から徴収するロイヤルティの対価として認識されるため,ロイヤルティの額に見合った店舗指導力を有することが重要になります。同時に,フランチャイズ本部としては,的確な指導により本部としてもコストをかけないで済むように指導をシステム化しておく視点も持つ必要があります。
三つ目は,フランチャイズ特有の加盟店開発機能です。多くのアーリーステージのフランチャイズ本部が陥りがちな罠は,「こんなにいいビジネスモデルなのだから,フランチャイズ募集を始めたら当然,加盟希望者が殺到するだろう」というような妄想です。フランチャイズ募集を開始したとしても,ブランドやビジネスモデルの認知度が低ければ,加盟希望者は思うように現れてこないのが実情です。加盟店開発機能とは,認知率向上や問い合わせ件数増加,そして加盟説明会の実施や加盟契約締結までのクロージングといったフローのマネジメントを指します。つまり加盟店開発機能とは,フランチャイズ・パッケージと言う商品を売るためのマーケティングであり,フランチャイズを成功させるための重要な機能よなります。
実際にはフランチャイズ事業の立ち上げ当初は,直営店で数店舗を運営していた規模感のままでフランチャイズ展開を始めるケースがほとんどです。このようなケースでは,フランチャイズ本部は各機能を兼任体制でスタートし,組織の規模としては事業責任者を含め数人から10人程度の組織となります。そしてチェーン規模の拡大に合わせて,「教育・研修」「物流・ロジスティックス」「システム管理・開発」「新業態開発」などの機能を追加して本部を充実させていくのですが,追加する機能については論点が細かくなるので,別稿に機会を譲りたいと思います。
フランチャイズ本部の機能
出所:フランチャイズ研究会,「新版 フランチャイズ本部構築ガイドブック」(同友館,2022, p39)
外部リソースの上手な使い方
フランチャイズ本部として組織づくりをする場合,すでに直営チェーンとしての運営実績がある場合を除き,すべての機能を内部リソースで充足させることは簡単ではありません。そういう場合は,コンサルタントや業務代行エージェントの外部リソースを活用することも検討材料となります。外部リソースを活用する領域は,大きく分けて加盟募集開始前のインサイドワークと,加盟募集開始後のアウトサイドワークとなります。
インサイドワークとは,フランチャイズ事業の販売商品であるフランチャイズ・パッケージを完成させるプロセスを指します。その内容は,プロトタイプモデルの確立,複数店運用によるノウハウの蓄積,ノウハウの標準化・システム化・マニュアル化,フランチャイズ本部中期事業計画の策定,加盟案内書等の加盟募集用ツールの作成,フランチャイズ契約書の作成など広範囲にわたり,かつそれぞれの整合性が担保されるように整備していかなければなりません。これらの業務は専門性が高く複雑ではありますが,フランチャイズを専門とするコンサルタントをリソースとして活用することで,アウトプットの質とプロセスの生産性を上げることが期待できます。ちなみに,当社はこちらのインサイドワークを主とするコンサルティング会社です。アーリーステージのフランチャイズ本部の中には,インサイドワークをないがしろにしてフランチャイズ募集を開始ししたため(日本にはフランチャイズ開始を規制するフランチャイズ法がない),説明内容や契約と経営実態との乖離が原因で訴訟となるトラブルが散見されるので,注意が必要です。
フランチャイズ展開のインサイドワークとアウトサイドワーク
加盟開発代行エージェントとは
アウトサイドワークとは,フランチャイズ加盟希望者を募集する一連のマーケティング活動となります。マーケティング活動である以上,PDCA(計画・実行・チェック・修正)サイクルを回すのは当然で,最初に加盟者ターゲット,告知方法や媒体,加盟開発ツールの活用方法,営業やクロージングの方法などの計画を策定します。当社のようなフランチャイズ専門のコンサルタント会社は,このようなマーケティング計画の立案と実行支援を行いますが,実際に加盟希望者との面談や商談といった加盟開発活動を行うのはフランチャイズ本部となります。ところで,この加盟開発活動自体を代行するエージェントも存在します。こういった加盟開発代行エージェントは優良なフランチャイズ加盟者のネットワークを有している場合があり,そのネットワーク資産を活かして営業を行います。あるいは,フランチャイズ本部に代わってフランチャイズ契約締結の直前までのクロージング業務を担うこともあります。一般に,加盟開発代行エージェントの報酬はフランチャイズ加盟金の半額程度と言われており,その分だけ加盟金が高止まりする恐れもあります。また,加盟開発代行エージェントは契約締結がゴールのためセールストークが過剰になり,加盟後に情報提供義務違反や欺瞞的勧誘と捉えられ係争となるケースもありますので,そのメリットとデメリットを勘案した上で,採用を決定することが望まれます。
内部リソースを外部化する「のれん分け」制度
ところで,直営チェーンで従業員の独立支援をすることでフランチャイズ化を進める方法に,「のれん分け」制度があります。のれん分け制度には,長年働いてくれた従業員に対するインセンティブ(恩賞)として行うパターンと,フランチャイズ加盟希望者を一定期間従業員として雇用し運営のノウハウを身に付けさせるパターンに大別されます。前者のような「インセンティブ型」の例としては「餃子の王将」が挙げられ,後者のような「加盟前提型」の例としては「CoCo壱番屋」が挙げられます。
のれん分け制度,特にインセンティブ型では,長年の貢献に報いるという性格が強いため,どのような経済的条件でのれん分けの権利を与えるかという設計が鍵となります。のれん分けの対象とする店舗は,のれん分け者(のれん分けを受ける元従業員)が自分で探してくるのか,本部側で探すのか,あるいは直営店を譲渡するのかでもビジネスの枠組みが変わってきます。また直営店が対象であっても譲渡ではなく業務委託をするとして,経営の全てを委託する経営委託(計算の主体すなわち税金を納める主体はのれん分け者),人の雇用を含めたオペレーションに関する部分だけを委託する運営委託(計算の主体は本部側)といった違いもあります。さらには,のれん分けの権利を許諾するという場合,単店舗のみの許諾なのか,複数店舗の許諾なのか(地域や数に限定はあるのか),いわゆる「孫のれん分け」のような弟子を取るような権利まで許諾するのかといったところでボタンをかけ違うと,後々の係争の種になるので慎重な設計が必要となります。次に示している「のれん分け制度設計書」を参考にしていただきつつ,実際の設計にあたっては専門家であるコンサルタントに相談されることをお薦めします。
フランチャイズ研究会「飲食店「のれん分け・FC化」ハンドブック」(アニモ出版,2017)
のれん分け制度設計シート