直営店をいきなりフランチャイズ展開してはいけないワケ
直営店のフランチャイズ展開をしたいと思っても、準備不足で無理に始めてしまうとほとんどの場合うまくいきません。なぜなら、直営店がそのままではフランチャイズ展開に適した業態・状態でなかったり、加盟店をサポートするために必要な本部機能が備わっていなかったりするからです。
フランチャイズ本部の立ち上げは本部構築といわれますが、建築物と同様に土台部分、つまり基礎を固めておくことがとても重要です。本コラムでは、その重要な「本部の基礎固め」について解説します。
「本部の基礎固め」とは
準備不足で無理にフランチャイズ展開を始めてしまうと、フランチャイズ店舗におけるサービスレベルが本部の基準に満たないことや、加盟者との行き違いによるトラブルが発生しがちです。そしてこれらのトラブルは、万一SNSに載せられると一気に全国へ拡散してしまいます。無謀なフランチャイズ展開の結果、せっかく築き上げてきたブランドが棄損し、直営店の業績にも影響を与えてしまうことになりかねません。そこで重要なのがフランチャイズ展開にあたっての準備としての土台作り、すなわち「本部の基礎固め」です。
ここからは、次のとおり大きく2つの観点に分けて「本部の基礎固め」について解説します。
・フランチャイズ展開に向いた直営店とは
・本部機能の構築と準備
フランチャイズ展開に向いた直営店とは
直営店の業態や状態によってはフランチャイズ展開の向き不向きがあり、その判定項目の一例としては次のようなものがあります。
①成功要因に再現性があるか
フランチャイズ展開には直営店が成功していることが前提です。そのうえで、なぜ成功できたのかを分析し、どのような条件(例えば立地、ターゲット顧客、品揃え、値付け、プロモーション方法など)であれば成功できるのかを検証できていることが必要です。これは、再現性のある成功ノウハウを蓄積できていること、と言い換えることができます。この蓄積には通常2年・3店舗以上の運営実績を有することが望ましいとされています。
②未経験の加盟者が店舗運営できるオペレーション難度か
フランチャイズ店舗は、未経験の加盟者が受ける短期間の研修と、本部が提供するスーパーバイジング(SV)等の加盟店サポートにより、一定のサービスレベルを保ちながら店舗運営ができることが前提です。そのためには店舗オペレーションが標準化され、簡素化されて効率的であり、マニュアルが整備されていることが必要です。なお、標準化・マニュアル化されていても、あまりにも手間がかかるプロセスや熟練が必要なプロセスがある場合には本部が代行する、機械化するなどの代替手段を検討する工夫も適切でしょう。
③ブランド力があるか
標準的なフランチャイズ契約では、加盟者が本部に支払うロイヤルティにはブランド名やロゴなどのサービスマークの使用料が含まれています。また、加盟者自身には、通常知名度がなく集客力もありませんので、フランチャイズ店舗のプロモーションのためにはブランドの力は非常に効果的です。昨今はSNSを活用したプロモーション戦略によりブランド力を高める例が多くみられます。
④他社との差別化ができているか
競合店がある中で顧客に対して店舗の利用を促すには、何らかの差別化が必要です。つまりは独自の特徴を持つことと同義ですが、これにはその店舗に行かなければ手に入らない/体験できない、代名詞的な看板商品(看板サービス)が有効です。この看板商品(看板サービス)は、競合戦略上非常に有効であるばかりでなく、他社による模倣を困難にさせることにもつながります。
⑤収益性が高いか
通常ロイヤルティは、加盟者の収益を財源として本部に支払われますので、フランチャイズビジネスは加盟者の収益を本部と加盟者で分け合う仕組みと考えることができます。言い換えれば、加盟者と本部は、本来共存共栄の関係性にあるといえます。本部にとっては加盟者には持続的に収益を上げ続けてもらい、本部はロイヤルティを財源として加盟者に対して適切なサポート体制を維持することになります。つまり、フランチャイズ展開をするには収益性が高い業態であることが前提となります。具体的には、概ね営業利益ベースで20%程度の利益率が見込める業態がフランチャイズ展開に望ましいとされています。
⑥トレンドに左右されにくいか
一過性のブームで人気が出た業態をフランチャイズ展開して、ブームが終息した数年後に閉店が相次ぐのをしばしば目にします。前述のとおり、加盟者に持続的に収益を上げてもらうことが本部の発展には必要不可欠です。したがってトレンドに左右されやすい業態はフランチャイズ展開には不向きといえます。一過性のブームではなく、安定して顧客の支持を受けられる業態かどうかの見極めがとても重要です。
上記のような項目を参考にしてフランチャイズ展開の向き不向きを判定し、直営店の業態・状況をフランチャイズ展開に適した形にブラッシュアップします。そうして作り上げた実験店舗(プロトタイプ)を一定期間運営したうえでその実績が想定の範囲であれば実際にフランチャイズ展開を進めます。当然プロトタイプの実績が芳しくなければ、その原因を分析し、さらに業態を磨き上げることになります。
本部機能の構築と準備
フランチャイズ展開には、本部機能の構築が必要ですが、まずはその前段の準備としてチェーン理念の明確化と商標登録を実施します。そして、本部機能の構築を進めます。
①チェーン理念の明確化
フランチャイズ展開を行うにあたって、本部はチェーン理念を明確にしなければなりません。チェーン理念を明確にすることで、価値観をともにして理念に共鳴する加盟希望者を募ることができます。また、チェーン理念は本部の経営判断の基礎や行動規範となるべき基準ともなります。本部はチェーンを維持拡大していくうえで、チェーン理念に沿った意思決定を行うことで加盟店にその妥当性を説明することができます。
②商標登録
商標登録をすると、ブランドや商品等の名称・ロゴなどのサービスマークの使用権を原則登録した管理者に限定することができます。チェーンにとっては統一のブランド名やサービスマークを使用できる権利を守り、他社に使用させないことは非常に重要です。当然、自社のブランド名を他社に商標登録されてしまうことは絶対に避けなければなりません。それまで育ててきたブランド名が使えなければ、ブランド価値を棄損することになります。
商標登録は、業種分類などによって登録の区分がわかれています。すでに商標登録している場合でも、フランチャイズ展開にあたっては経営指導に関する「経営の診断又は経営に関する助言」を含む区分である第35類での商標登録が必要となりますので、必ず登録している区分を確認してください。商標登録をしているかどうかや登録の区分がわからない場合は、特許庁が提供するWeb検索サービス「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」で事前確認をしてください。
③本部機能の構築
フランチャイズ展開にあたっては本部機能を設計し、本部組織に取り込んで誰が(どの組織が)その機能を担当するかを決める必要があります。この機能には、主として加盟店営業を担う加盟店開発機能、顧客に提供する商品サービスを開発してブラッシュアップする商品開発機能、加盟者を指導して店舗運営のサービスレベルを向上させる加盟店サポート/SV機能が挙げられます。これらはフランチャイズ本部の基本3大機能と呼ばれ、フランチャイズ展開を行う際に優先的に構築すべき機能です(もっとも、商品開発機能は直営展開でも必要な機能です)。本部立ち上げにあたって投入できる人員リソースに限りがあるときは、フランチャイズ店舗が5店舗程度までは社長が加盟店開発と加盟店サポート/SV機能を中心に担い、社員2~3名がサポートに入る形で良いでしょう。その間に社長が社員にOJTをしながらSV業務を引き継ぐことでSV人材を育成します。
まとめ
ここまで見てきたように、フランチャイズ本部の立ち上げには十分な準備が必要です。スピード感は必要ですが焦りは禁物、フランチャイズ本部は「一日にしてならず」です。「本部の基礎固め」をしっかり準備しておくことで、フランチャイズチェーンの規模が拡大しても耐えられる本部の構築につなげられるでしょう。