全国展開には検討必須?エリアフランチャイズ制度とは
2025年01月23日
フランチャイズ本部にとって、加盟店開発は非常に重要な業務のひとつです。一方、加盟店を全国に展開する場合は、開発のコストや加盟店の管理は本部にとって大きな負担となります。
規模が大きくなるにしたがい増大するフランチャイズ本部の負担という課題を解決するひとつの方策として、エリアフランチャイズ制度の導入があげられます。本記事では、エリアフランチャイズ制度を導入する際のメリット・デメリットを中心に解説します。
エリアフランチャイズ制度の目的
エリアフランチャイズとは、特定の地域(エリア)において、加盟店開発などの本部機能の一部を他社(エリア本部・エリアフランチャイザー)に委ねることと定義されます。加盟店開発以外にも、スーパーバイザーによる巡回指導や定例研修、商品開発、ロイヤリティの徴収などの本部機能も委譲することがあります。
フランチャイズ本部が加盟開発をおこなう場合、やみくもに加盟店を募集するとコストだけがかさみ、思うような成果をあげられないことがあります。多くの本部は、加盟募集の初期段階では、地域を絞りこんで集中的に出店し、一定規模まで成長した段階で出店地域を徐々に拡大していきます。また、フランチャイズ加盟店の運営管理や人材育成などのコントロールも、店舗数の拡大や本部の作り上げたブランドイメージを維持向上させるうえで重要な業務となります。
このように、フランチャイズチェーンは、規模が大きくなるにしたがいフランチャイズ本部の負担も増大します。エリアフランチャイズ制度は、これらの負担を軽減することが目的です。
エリアフランチャイズ制度の導入には、エリアフランチャイズ契約の準備が必要です。エリアフランチャイズ契約には、特定の地域にテリトリー権(排他的独占権のこと)を設定して、複数の加盟店を運営する「マルチユニット契約(複数店加盟契約)」と、自社で加盟店を経営する他に地域内の別事業者を加盟者(いわゆる孫加盟者)として傘下におく「サブライセンス契約(サブフランチャイズ契約)」に大別されます。ここでは後者のサブライセンス契約をエリアフランチャイズとして取り上げます。
フランチャイズ本部(総本部)はエリア本部となる企業とエリアフランチャイズ契約を交わし、エリア本部は総本部にエリアフランチャイズフィーを支払います。一方、エリア本部は委託されたエリア内の加盟店が支払う加盟金やロイヤリティの一部を、エリアフランチャイズ契約で決めた割合で受け取ることができます。
このように、本部機能を信頼の置ける企業と共同で行うことで、総本部の負担を軽減し、効率的にフランチャイズ展開を進めることが期待できるのがエリアフランチャイズ制度です。
図表1 エリアフランチャイズの仕組み
エリアフランチャイズのメリット・デメリット
チェーン規模の拡大に伴うフランチャイズ本部の管理コストを軽減して、効率的な店舗管理の実現を目指すエリアフランチャイズ制度は、フランチャイズ本部・エリア本部双方に様々なメリットがあります。しかしながら、総本部とエリア本部、総本部と加盟店との信頼関係において、エリアフランチャイズ特有のリスクが生まれることも事実です。総本部の立場から、エリアフランチャイズ導入のメリットとデメリットを、図表2に整理しました。各項目をくわしく解説します。
メリット | デメリット |
①事業の展開スピードが速まる | ①加盟店開発が滞り機会損失が発生する可能性がある |
②地域事情に即した本部機能を発揮できる | ②指導力不足による業績不振をもたらす可能性がある |
③まとまった資金の流入が見込める | ③契約終了時のリスクが生じる |
④総本部の負担が軽減される | ④一度付与したエリアフランチャイズ権を取戻すことが困難 |
⑤エリア本部が持っている機能を活用できる | ⑤エリア本部が他のチェーンに鞍替えするリスクがある |
図表2 エリアフランチャイズのメリット・デメリット
エリアフランチャイズのメリット
①事業の展開スピードが速まる
多店舗展開の手法にフランチャイズを選ぶ理由に、短期間での事業展開やシェア獲得が可能であるという点があげられますが、エリアフランチャイズを導入し、総本部とエリア本部が協業することによりさらに事業展開のスピードを速めることができます。
北海道から九州・沖縄まで、日本全国の加盟店開発から開業前のサポート、研修や経営指導などのすべてを総本部のみで行う場合、総本部の本部機能や人材の充実度が必要です。それよりも、地域ごとにエリア本部を置き、それぞれが連携を取り合い役割分担する方が効率良く、スピーディに事業展開することができるでしょう。
②地域事情に即した本部機能を発揮できる
総本部の拠点から離れた地域で加盟者が事業開始する際に、総本部の現地での知名度が低く土地勘がないことなどから、加盟店開発や立地開発、物件開発が滞ること場合があります。また、遠隔地であることからサポートが遅くなることや、総本部がその地域の顧客ニーズを把握できず、期待通りの成果が得られないといったケースがしばしばみられます。
このような場合に、その地域情報に精通した地域の有力事業者をエリア本部として、本部機能の一部を任せることで、地域事情に即した本部業務が可能となり、総本部が統括する以上の成果を実現できる可能性があるでしょう。
③まとまった資金の流入が見込める
エリアフランチャイズでは、総本部はエリア本部にエリアフランチャイズ権を付与する代わりに、その対価としてエリア本部からエリアフランチャイズフィーを受領します。
このエリアフランチャイズフィーには、エリアフランチャイズ契約の締結時に支払われるイニシャルフィーと、継続的に支払われるランニングフィーの2種類がありますが、契約締結時に支払われるイニシャルフィーの金額については、1エリア当たり数千万円単位の契約となることもあり、総本部としてはエリアフランチャイズを導入することにより、まとまった資金の流入が見込めます。
④総本部の負担が軽減される
エリアフランチャイズ契約は、前述した通り業務提携契約・共同事業契約といった側面を強く持っている契約です。エリア本部は総本部に代わって、加盟店開発などの様々な業務を行いますので、その分総本部の業務負担は軽減されます。
この業務の分担については、総本部とエリア本部で協議して詳細に決めることになります。総本部としてエリア本部にどんな業務を求めるのか決める際に、エリア本部の経営資源によって任せられる業務が異なるため十分な検討が必要です。
⑤エリア本部が持っている機能を活用できる
エリア本部の既存事業によって活用できる機能は異なりますが、エリア本部が持っている経営資源を活用する事ができるのもメリットの一つです。
例えば、エリア本部の既存事業が物流業であれば商品供給などにおける物流インフラが活用できますし、不動産業ならその地域における物件開発に、建設業ならエリア加盟店の店舗内外装の工事に活かすことができます。
エリアフランチャイズのデメリット
①加盟店開発が滞り機会損失が発生する可能性がある
エリアフランチャイズは、本部機能の一部をエリア本部が担うため、エリア本部の資質や力量がその地域全体の成果を左右してしまいます。エリアフランチャイズの主目的である加盟店開発をエリア本部に委ねたにもかかわらず、エリア本部の加盟店開発が進まない場合には、総本部にとっては機会損失が生じることになります。
そのため、エリアフランチャイズ契約では「最低開店予定店舗数」をあらかじめ決めておき、予定通りに加盟店開発が進まなかった場合には、エリア本部に対してエリアフランチャイズ権を喪失させるなどのペナルティを用意しておくこともあります。
②指導力不足による業績不振をもたらす可能性がある
エリア本部にエリアフランチャイズ権を与えた地域では、エリア加盟店への経営指導はエリア本部が行うことも多いでしょう。その場合、エリア本部の実力が伴わないと総本部の求めているレベルの経営指導を行う事ができず、その地域のエリア加盟店の業績が他の地域と比較して低くなってしまう危険性があります。フランチャイズはすべての店舗が同じブランド名で運営する場合が多いため、一部の加盟店の業績不振や悪評が全体に与える影響も少なくないため、総本部はエリア本部の指導力をチェックし続けることが重要です。
③契約終了時のリスクが生じる
エリアフランチャイズ契約は、通常のフランチャイズ契約よりも長い期間で設定されることが多いですが、エリアフランチャイズ契約が終了した際のエリア加盟店の取扱いが問題となることが少なくありません。エリア本部の権利が喪失した時点で、エリア加盟店との契約関係は総本部に引き継がれるとする契約もありますが、遠隔地のエリア加盟店に対して、総本部が経営指導や商品供給を継続して行うことが困難となるリスクも考えられます。
④一度付与したエリアフランチャイズ権を取戻すことが困難
エリア本部の資質や力量によって、その地域の成果が大きく左右されることは前述の通りです。そのため、エリア本部の選定は慎重に行わなければいけません。選任したエリア本部が総本部の考える水準に達しない場合であっても、簡単にエリアフランチャイズ契約を解除したり、テリトリー権をはく奪したりすることはできません。
⑤エリア本部が他のチェーンに鞍替えするリスクがある
複数の直営店舗を運営し、その地域における店舗開発やエリア加盟店への経営指導を行っていたエリア本部が、加盟しているフランチャイズチェーンから脱退し、他のフランチャイズチェーンに加盟してしまうリスクがあり、こういったケースも実際に起きています。このようなケースが起きてしまった場合、話し合いで解決できなければ最終的には訴訟となる可能性が高い点についても留意する必要があります。
まとめ
エリアフランチャイズ制度は、フランチャイズ本部の組織内にさらに本部をつくる構造のため、総本部とエリア本部との信頼関係の強さが発展の鍵となります。2社のバランスが崩れるとチェーン全体に悪影響を及ぼすこともあるため、総本部は、エリアを任せるにあたり慎重にエリアフランチャイザーを選定し、情報交換を積極的に行うなど良好な関係を築き続けて一生涯の付き合いをしていくことが重要です。
エリアフランチャイズ制度の導入については、目先の利益に惑わされずに、慎重な判断と丁寧な合意形成、万が一の場合を考慮した契約書作成が求められます。現在は、本部構築の初期段階からエリアフランチャイズ制度導入を見据えた加盟契約書をつくるフランチャイズ本部も増えています。導入後のトラブルを未然に防ぐため、専門家の意見を聞きながら着実に本部構築を進めていただきたいと思います。