日本フランチャイズ研究協会

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フランチャイズ本部における立地評価基準・売上予測方法の整備

本部向けコラム 

2025年02月02日

店舗型ビジネスを展開するフランチャイズ本部にとって、店舗に適した立地の評価基準を示し、その立地における精度の高い売上予測を示す仕組みを提供することは大変重要な機能の一つです。出店したい場所での収益性が分からない状態では、加盟希望者は適切な事業計画を組むことが難しく、出店自体を判断しづらいからです。本コラムでは、フランチャイズ本部に必要な「立地評価基準・売上予測方法の整備」について解説します。

 

店舗ビジネスにおける立地評価基準や売上予測の重要性

フランチャイズチェーン展開に限らないことですが、店舗ビジネスにおいて出店場所の選定は、将来の業績に大きな影響を及ぼす非常に重要な要素になります。そのためフランチャイズ加盟者は、事業の成功確率の高い物件の紹介や、加盟者自身が選んだ物件の立地診断や売上予測などに関して、フランチャイズ本部によるサポートを期待します。

 

フランチャイズ契約において本部による立地診断や売上予測は義務ではありません。最近ではAI(人工知能)などを活用した売上予測サービスなども登場してはいますが、精度の高い売上予測を行うためには、相当な店舗数を複数年運営し蓄積したデータが必要になります。これからフランチャイズ本部を本格的に始めようという段階では、分析可能な既存店が少ないケースがほとんどだと思います。

 

また、「その店舗はうまくいくのか?」「売上はどれくらいになりそうか?」という予測は、あくまでも将来の見通しであり、経済動向・市場環境・加盟者の経営努力などによって大きく左右されるものです。フランチャイズ本部としては、リスクを回避するために、予測売上の提示や売上保証はしないことをフランチャイズ契約書に定めておくケースが一般的です。

 

●本部は予測売上を提示しないこと。加盟者は、自らの責任と判断で事業計画を作成しなければならないこと。

●加盟者は、自らの責任と判断で店舗を選定しなければならないこと。

●開業後の業績は、経済動向・市場規模・加盟者の経営努力などによって大きく左右されるものであり、

フランチャイズ本部はその店舗の売上は保証しないこと。

しかし、どれくらい儲かる事業なのかもわからずに加盟を決断する加盟者はいませんので、一般的には加盟希望者に対してモデル損益や収支シミュレーションなどを提供することは、加盟者との信頼関係を構築するうえでも大切な要素となります。

 

まだ既存の店舗数が少なく、立地の評価基準が整えられていないフランチャイズ本部の場合には、新店の立地評価は本部の経験則で行うことになります。しかし、いつまでもそのような方法に頼るわけにはいきません。直営店やフランチャイズ加盟店の増加にあわせて、データに裏付けされた立地評価基準や売上予測方法を整備していく必要があります。

立地評価方法の基礎知識

立地評価では、その店舗がターゲットにしている顧客の来店行動に影響を及ぼす、さまざまな空間情報を体系的にとらえることが必要です。空間情報を体系的にとらえるためには、「商圏」「動線」「地点」の3つの視点で、業態に即した項目を設定して評価を行います。

 

(図表1 立地評価の3つの視点)

出典:新版フランチャイズ本部構築ガイドブック(P86)

 

商圏分析を行うにあたり、以前は高価なGISソフトウェアや有料サービスを使う必要がありました。今は総務省統計局が提供している無料の地理情報システム 「jSTAT MAP」で、地図上に商圏範囲を描き、範囲内のデータ(国勢調査や経済センサス等)を集計するなど、簡単に商圏内の情報を分析・整理することが可能です。

 

また、動線の診断を行う際には、経済産業省が提供している「RESAS」という地域の産業や人口動態・人流のビッグデータを集約した分析ツールが無料で利用可能です。例えば、同サービスにある流動人口メッシュでは、月別、平日・休日別、時間帯( 時間帯単位)別の流動人口の推移を250~500mメッシュで把握することが可能であり、動線やマグネットからの位置関係(大型店舗や駅、中心市街地など商圏内の中心となる施設等のことをマグネットと言います)などの評価を行うことが可能です。

 

しかし、最終的な判断は、これらのサービスに用いられているデータや、マップに掲載されている画像などだけでは不十分です。たとえば、夏になると街路樹に葉が生い茂って遠くから看板が見づらくなったり、画像で見るより駐車場の入口が狭くて入店しづらかったりする場合など、自分の目で確認しなければ気が付かないことも多くあります。やはり「現場」「現物」「現実」の三現主義に基づき、実際に現場で現物を観察して、現実を認識した情報をもとに判断することが重要です。

 

立地診断に欠かせない「3つの視点」や「jSTAT MAP」、「RESAS」については当サイトのコラム「フランチャイズコンサルが教える立地の見方」もあわせてご参照ください。

 

また、「jSTAT MAP、RESAS」は以下の書籍に利用方法などが丁寧に解説されておりますので、ご興味のある方はぜひご参考にしてください。

「データを活用した 立地診断の基礎 jSTAT MAP & RESAS 入門編」

「jSTAT MAP徹底活用 立地診断ガイドブック」

 

立地評価基準と売上予測方法の整備

<立地評価基準の整備>

スタートアップ期のフランチャイズ本部では、分析できる既存店舗数が少なく、新店舗の立地評価は創業者や立地調査担当者の経験則で行うケースがほとんどです。しかし、いつまでもそのような方法に頼るのではなく、既存店の増加に合わせて、きちんとしたデータに裏付けされた立地基準を本部として持つことが必要です。

 

ただし、最初から難しく考える必要はありません。それまで出店した既存店(直営・FC)について、前述の立地評価項目ごとに実データを収集・整理し、平均・最大・最小などの基本統計量を算出することから始めましょう。そうすれば、最初は経験(アナログ)的にしかとらえられていなかった基準が、きちんと(デジタル)データとして裏付けされていきます。

 

図表2は、10店舗程度のサンプル数で立地評価したものです。平均値・中央値などを算出することで、フランチャイズチェーンとして満たしておかなければならないおおよその立地基準が、データとして浮かび上がってきます。

 

(図表2 立地基準の設定例)

出典:新版フランチャイズ本部構築ガイドブック(P159)

 

<売上予測方法の整備>

店舗数が20店舗程度に増えてくれば、店舗毎の立地評価データと店舗毎の実際の売上等の業績データから「出店候補地における売上を、データに基づいて予測する」売上予測モデルを整備することが可能になります。売上予測モデルの整備はフランチャイズ本部としてチェーン拡大を図るためにはとても重要ですが、あくまで自社がすでに展開している店舗データに基づくことが必須条件であり、他社チェーンの情報などを使っても意味はありませんのでご注意ください。

 

<売上予測モデルの作成手順>

手順 ポイント
(手順1)

実地調査

・考えられる立地データ項目の洗い出しや定義付け

例:「商圏人口は半径何kmとするか」「総人口か、ターゲット(20代、女性など)を絞り込むか」

・実地調査手順書の作成、実地調査

(手順2)

データの数値化

・収集したデータの評価軸の設定

例:「候補地が商圏内の主動線(生活動線)上にある(3点)」

「主動線上にないが主動線からのアプローチが容易(2点)」

「動線から外れている(1点)」

・評価軸にそったデータ評価の実施

(手順3)

データの分析・

ブラッシュアップ

・重回帰分析などの多変量解析手法の活用

※操作は決して難しいものではなく、エクセルなどの表計算ソフトに標準で備わっている機能を活用します

・データの基本統計量(平均値、最大値、最小値、標準偏差など)の算出

・変数間の相関性(売上とどの変数の相関が高いか等)に関する分析

・精度を高めるためのモデルのブラッシュアップ

 

(図表3 売上予測シートの例)

出典:新版フランチャイズ本部構築ガイドブック(P163-164)

 

「新版フランチャイズ本部構築ガイドブック」に詳しい売上予測の整備方法を掲載していますので、ぜひご参考にしてください。また、当コラムを連載しております㈱日本フランチャイズ研究機構(JFRI)でも売上予測モデルの整備等、フランチャイズ本部への幅広い支援活動を行っておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。

 <売上予測精度が確保できない場合の対応>

加盟者が加盟を検討するにあたり、売上予測モデルは大変有効な参考資料となりますが、予測よりも実績が下回った場合など、加盟者とのトラブルの種になることもあり得ます。この状況を避けるため、本部として算出する売上予測の精度が確保できない場合には、直営店舗概要と売上実績のみを明示し、加盟者に売上のイメージをつかんでもらうという方法もあります。ただし、もちろんこの場合でも、精度の高い立地評価が重要であることは言うまでもありません。

北村洋一

中小企業診断士
1975年生まれ神奈川県出身。1999年に国内石油元売へ入社。燃料販売の営業・企画業務を経験した後、系列特約店の与信・債権管理や経営支援・事業承継サポートのマネジメントに従事。

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